Step2.副業の計画を立てよう

古物商奮闘記・11

海外の壁

お盆休みの初日にね。
せっかくだからどこかに出かけようぜ!って。
家族に言ったんですよ。そりゃ言うでしょ父親として。

でも、そしたらね。妻と娘、口を揃えて『やだ。暑い』って。
悲しいこと言いやがって。

そんなん言われたらお父さん暴飲暴食しちゃうじゃないですか。
こんな食いしん坊を一人野に放っちゃっていいの?
放牧なの?今年のお盆そういうスタイルなの?

ええ。分かりました。
そういう事ならねと、3時のおやつに家系ラーメン食ってやりましたよ。
ミニチャーシュー丼付きでね。

さすがに食い過ぎだろうか?ハーフサイズにしておけば良かった。
目の前に届いた器のスープは赤い
3時のおやつに激辛シンシンメンは挑戦的過ぎたか?

ご馳走のボリュームにややたじろいだその時だった。
ちょうど、斜め前方の箱席に若い女性がお手洗いから戻る。
眼鏡がとてもよく似合う美人だったよ。
私の横を通る時に仄かなフレグランスをなびかせた。
正直に言おう。
目の前のご馳走から一瞬にして心を奪われたね。

こういうお堅い研究職が似合いそうな理系女子に私は弱い。
そうではないのかもしれないけど、ここはリケジョという事にする。

気もそぞろに赤く染まった麺を啜った。

紺の緩やかなカットソーにベージュのプリーツロングスカート。
天使のリング輝く艶やかな黒髪ボブをふわりと靡かせる。
そしてふと視線の注意が、席向かいの連れであろう男に逸れた。
その瞬間。

ゴッ!って、箱席の座面角に向こう脛をぶつけた。

クッ!という小さな呻きと共にうずくまる女性。

私もビックリしたが、含んだ麺を吹き出しそうになるのは何とか堪える。
ええ!そんなことある?そんな隙を見せる!?
一切の隙も許さないクールビューティー像を勝手に妄想した私に、彼女はか細い声で更に追い打ちをかけた。

『べ…弁慶、弁慶が…』

んグふぉッ!咽せて喉の奥がヒートした。
噛み切った麺が鼻の奥に行ってさらに咽せる。
んぎゅ!グっぐが!クかっ!
ゲヘゲヘと咳をする度に鼻・喉・鼻・喉と麺の切れ端をオーライ!とキャッチボールする。
こっちはちっともオールライトじゃない。
苦しさに全く収拾が付かない。気管という気管がアツくヒリヒリする。

リケジョの口から弁慶って。そんな言葉のチョイスある!?
敢えて『泣き所』を言わずして泣き所を見事に表現する大和撫子の奥ゆかしさよ。
『おいおい大丈夫か?』と向かいに座る彼氏と思しき男性。
大丈夫じゃねえよ!萌えだろよ?萌えろよオメエ。
何でそんなに冷静でいられる?もしかして慣れとんのかい!?
まさかそれはいつもの事なんかい!?

弁慶って!
頭の中でのリフレインに更に咽せる。
目を逸らしてたから分からなかったけど、ひょっとしたら逆に心配されていたかもしれない。
そして多分、そんな姿には逆に萌えてはくれなかったであろう。
最近の言い方をすればドン引き?
それだけの危なげはあった自信がある。

ああ…そう言えば、牛若丸の衣装もプリーツスカートの様に何かフワリとしてたっけ。
800年余の時を超えて弁慶の呪いがリケジョを襲う。
そんなミラクルもあるかもしれない。お盆ですしね。
かの弁慶もお盆の期間だけこの世に戻ってきたのかもしれません。
可哀想に…。そんなミラクル欲しくなかったよね。
きっとSTAP細胞はどっかにあるんだよね。うんうん。

代わりに私が五条大橋に向かって拝んでおきます。
リケジョよ。お大事に。
そして私の喉と鼻。お大事に。

それにしても、弁慶ぶつけて痛がる女性って…何か良いですよね。
悶え苦しむ貴女に、私も人目を忍んで悶えました。
お気に入りのTシャツに赤いつゆが少し跳ねましたけどね。

眼鏡の似合う女子というフェティッシュに『弁慶を痛がる』をプラスしても良いですか?
それに併せて3時に家系とは。選ぶ食べ物にもシンパシーを感じる。
独身の時だったら放ってはおかなかったリケジョです。
クイクイってしながらフラクタル理論で問い詰められたい。

何を?って!クイクイって言ったらメガネに決まっているではないか!

大体ね、こうしたどうでも良いことを長々と書く時は物事に進捗が無い時。
真面目に相手しちゃだダメですよ。

長期休暇って…アレですよね。人をダメにする。
初日は眼福でしたが、ダラダラと過ごして何もしないままもう3日過ぎようとしている。

せめて明日。部屋の片付けだけでもしよう。
でないとまた、妻実家のご先祖様に拝むだけでこのお盆休みが見す見す終わってしまう。
そう、去年と同じように。

そうならない様に、今年のお盆は『何かアクションを起こそう週間』にしよう。

そう決めた矢先であった。
例の『eBay輸出スタートガイド』で、荷物の重さに比例した料金表をチラ見して愕然とするのである。

ここでようやく前回の続きとなるのだが。
まさか…越境配送がこれ程までに輸送料を取るとは…。
しばし呆然とした。

アレ。あの熊って重さいくらだ?
確か、いつも買う米袋とドッコイの重さだった様な…。

私は、例の木彫りの熊を抱きかかえた。

パーマ大佐の『森のくまさん』をパロったあの歌のBメロが頭に流れる。

♪ひとりぼっちの~わった~しを~ 強く抱きしめた~熊~♪

あぁ、アレは熊が抱きしめたんだっけ。
お嬢さん(PV:鈴木奈々)が抱きしめられたんだっけ。そうか。

そんな事よりも、やっぱりクマ重い。
当たり前だが大きさ同じに束ねたの薪ほどに重い。

体重計に乗せて測ってみた。

…6.4㎏…。マジか!

この表に照らし合わせて、例えばアメリカの住人がこの熊を落札したとしよう。

拡大

送料だけで軽く4万超えるのか!?
しかも、ヨーロッパやアラブ・バングラディッシュはもっと高い。

ダメじゃん熊。越境に向かない。

このFedExっていう配送業者?
海外ドラマとかでよく見るけど、まだ今ひとつよく判らない。
しかし高いな!これ絶対客とトラブるやつじゃん。

配送についてはもっとよく調べる必要がありそうだ。
それよりもこの熊の出品を果たしてどうするか?

この問題に於ける優先事項、それと何を取捨選択するのか。
明日はすた丼でも喰らってやろうか?という食欲。
弁慶に痣をこしらえた眼鏡美女の妄想。
まどろみの中、まるで台風が列島沖をもたつくこの重苦しい空模様のように、
それらがグルグルと左回りに渦を巻いていた。

でも、左巻きなので至って論理的だ。
つまり僅差で左脳が支配しているってワケ。
だから安心してくれ。

大丈夫。実はもうどうするか決めてある。
今夜は良い夢が見れそうだ。

明日には、きっと正しい判断を下している。
頑張れ自分。

続く。