実出品リスト

アンティーク雑貨を売ってみよう

千本ノック 33球目 ハンドペイントアンティーク雑貨

アンティーク雑貨:ハンドペイントの小物入れ(木製)
出品価格:1,500円スタート 即決価格:5,000円

【商品説明】

このアンティーク雑貨。
何て呼べば良い物なんでしょうかね?
やはり可愛い物入れですねと言ってあげれば良かったのだろうか?
醤油立てに丁度いいなと言ったら持ち主は軽くキレていました。

実際どう使うのが正しいのか?
きっと正解なんて無いんでしょうけどね。

…で。その人から譲り受けて、今これの持ち主は私になったんですがね。
と言うよりは、形見分けして頂いた物でして。

馴染みにしていたスナックのママさん。
そう。彼女はもうこの世にはいません。

《いや、まさかな。まだ何処かに生きているんじゃないか?》
そう思わせるほど、その愉快な存在感が記憶として在り在りと残っております。

それはもう、根っからのパフォーマーでしたね。
マイケル・ジャクソンに変装してドタドタと下手なムーンウォークでビリー・ジーンを歌っては、
『マイケルっていうよりは木の実ナナだな!』
『スリラーの方が似合ってるぜー』
と、客席からは親しみの籠もった拍手と笑いが響いた。

常連客のタケさんにギターを弾かせて、
どぶろっくの【もしかしてだけど】(女目線バージョン)
なんて替え歌もやってましたね。
毎晩新しい歌詞を落とし込んでそれを鉄板ネタにもしていました。
『それってアタイを誘ってんじゃないの~♪』
と歌えば『誰が誘うかよーババア』と野次が飛ぶ。

ママさんがマイクを握ればとにかくウケた。
アレを観せられた後には、恥ずかしくてとてもマトモな曲なんて入れられやしない。
閉店間際はもうワンマンショーだ。

まぁ、思い出せばキリがありませんが、とにかくいつ行っても賑やかなお店でした。

私がその訃報を受けたのは、通夜から2週間も経った頃。

電話番号を客の誰とも交換していなかった為、知るのがかなり遅れました。
出張帰り、ふと店に足を運ぶまでそんな事とは露知らず。
ママさんの従兄弟と名乗る中年男性からそんな事情を聞くに至りました。

それはもう唐突の事でした。

少ない身寄りのその方にしてみても、正に寝耳に水の事だったそうです。
死因は脳梗塞との検案。
閉店後の発症で、翌日になって開店していないのを怪しんだ客の一人に発見されたという事の顛末。

『私は死ぬ瞬間までこの店をやる。畳の上では決して死なない』

コロナ開けに店を再開した時に聞いた言葉です。
頑なにも彼女はそれを果たした。

片付けも、もう何日目だったのでしょうか?
従兄弟であるところの彼は、その日も遅くまで汗を流しておりました。
店の明け渡しまであともう少しという塩梅でした。

もうガランとしてしまったバーカウンター。
わずかな食器類と、このアンティーク雑貨だけがポツンと残されていました。
取り立てて気に入ったという訳ではないのですが、どうにも縁がある。

やはり醤油を立てるのに丁度いいな》と改めて思う。
あと胡椒と七味、そして山椒も収めればあつらえた様にスペースは埋まります。

この小物入れ。
ママさんは個包装の紙お手拭きを入れる箱として使っていました。
店の調度品の中でも、それはとりわけ大切にしている様に見えました。

何でも話では、かっぱ橋に包丁を買い替えに行った時、ナンパしてきたジローラモにおねだりして買わせたイタリアンアンティークだという事らしい。
開店当初からの重鎮客だというナベさんからはそう聞きました。

まぁ、とかく話には尾ヒレが付くものです。
どうせママさんお得意の《吐息のようにつくおしゃれなウソ》だとは思っていましたが。

よくよく聞いてみれば、本当のところはこう。
数寄屋橋のアンティークショップで、ジローラモ似の店員から値切って買った。
との事でした。これが話の真相。

おかしな話だとは思いましたよ。
でもまぁ、酔っぱらいの伝言ゲームともなればこんな奇妙な形にもなりましょうよ。

ママさん曰く。
『別にそれでもいいだろ。話には尾ヒレが付くもんさ。
尾ヒレが付かなきゃイナセじゃないってなもんさ』

なるほど、これぞイナセな物言い。
夜ごと酔客をおもりするには、これぐらいの度量が必要なのかもしれませんね。

こんな人もいた。それを世界の何処かに残しておきたくて。
少し出品には必要のない話までしてしまいました。

すみません。
話を本題に戻しましょう。

しかしまた、銀座界隈のアンティークショップで買ったとなれば、きっとモノは確かなのでしょう。
醤油立てと言われて腹を立てる気持ちも分からなくもない。

とは言え、この形。
もらったは良いが、やはり醤油立てぐらいにした使い道が思い付かず。

些か悩みましたが、この小物入れ。
価値が判る方にお譲りすることに致しました。
いつまでも私の手元にあっても、どうせ醤油を立てる用にしか役立てる事が出来ないでしょうから。

価値の判る方の食卓にあれば、きっとママさんも安心して成仏してくださる事でしょう。

ええ。調味料を入れるのに丁度良いです。

さて問題です。
このお話自体にはどれだけの尾ヒレが付いているでしょう?

一点モノの家具を売ってみよう主人公は婚期に悩む役職付きの若き女性。同期の友人からハンドペイントスツールを譲られる事になる。その理由がどうにも癪に障る。自覚なく散々ノロケられれば、ヤフオクに売っぱらう正当な理由になります。...