スピンオフ

パーティーゲームを売ってみよう

千本ノック 17球目 ジェンガ

パーティーゲーム《ジェンガ》をお譲りします。
出品者:70歳 女性(主婦)
出品額:0円~

口上スタイル:必要がなくなったから

今回は、出品物に対する母心をお楽しみください。

【商品説明】

私にはもう必要がなくなったので出品します。
傷なし。美品。

皆さんはジェンガというゲームについて
どれだけの事を知っていますか?

恐らく、大勢でワイワイと楽しむパーティーゲーム。
縦横交互にブロックを高く敷き詰め、
バランスを保ちながら一人ずつそっと中抜きをし、
それを更に上へ上へと積み上げてゆく。

そして最後にバランスを崩して積み上げた塔を倒した者が負け。

多分、やった事がある人もない人も、
それぐらいにしか知らないのではないかと思います。

ですが、このゲームの所有者、又は管理者の立場になると、
もう少しこのゲームの事を知っておかなければなりません。

さて、このジェンガというゲームは
何本の積み木でワンセットでしょうか?

正解は54本です。

この54本を失くさない様に守り切るのが私の使命でした

我が家ではこのジェンガが正月の風物詩。
親戚、娘夫婦が年始に我が家へ集まると、
決まってこのゲームで大盛り上がりでした。

夫の『母さん、アレ持ってきて』という一言が出る時には、
大人連中は皆、赤ら顔に酔っ払っています。

そんな中に小中学生の孫も加わるので、それはもう大騒ぎでした。

多くの人がそうである様に、
当家の面々も遊ぶだけ遊んで、
その後はガラガラと何かの入れ物に放り投げてそのまま。

我が家では、その入れ物はクッキーの空き缶でした。
まぁ片付けしてくれるだけまだマシなのでしょうが。

大抵、三が日が過ぎて娘夫婦が帰った後にする大掃除で、
行方不明になってしまったジェンガのブロック数ピースを
ソファーの間とか、冷蔵庫の下などから発見します。

54本が無事に揃った事に安堵し、
その後、松の内の静けさの中で一本一本メンテナンスを行うのが、
例年変わらない私のライフワークでした。

一本一本、丁寧にアルコールティッシュで汚れを拭き取り、
しっかりと陰干しをしたあとに、
2000番のサンドペーパーで軽く磨き上げるのです。

気を付けなければいけないのは、
水拭きをしてはいけないという事。
また、合わせて天日に晒してしまうと変形してしまうという事。
一度それで失敗してしまい、買い替えるハメになってしまいました。
このゲームは言うまでもなくバランス命ですから。

そして、次の年の集いに備え
ブロック三本一組を18階層に並べ
キッチリとラップでくるんで箱にしまいます。

その為に私は箱は大切に取ってあります。
何に於いてもそうなんですが、
私はこの手のバラ物を扱う時、箱に詰めておかなければどうにも落ち着きません。

我が家の者達には、宴の後、簡易的にクッキーの空き缶にしまわせます。
ですが、私がこうしてジェンガを丁寧に管理していることを
彼らは知らない。
夫も知らない。

そして一年。次の大晦日。
面々が集まる前。おせち料理を用意した後に、
ジェンガをくるんだラップをほどきます。 
再びクッキー缶に雑然と展開して、また正月のその時を待つのです。
夫の『母さん、アレ持ってきて』です。

しかし、近年。
どうしたことでしょう。
ジェンガにお呼びが掛からなくなってしまいました。

ジェンガは任天堂Switchにその座を奪われてしまったのです。

滅多に会えない孫にジイジとせがまれれば、夫も弱い。
大画面のテレビにも買い替え、体力が尽きるまで孫に付き合います。

我が家にもとうとうデジタルの波が押し寄せてきたか。

その年から、私は敢えて《ジェンガ》と口にはしませんでした。
それは静かに役目を終えたのだなと悟りました。

しかし、私はむしろホッとしていました。
巣立った娘の代わりに、我が子のように管理してきたジェンガ。
それがもう、誰にも乱雑に扱われる事は無いのだなと。
少なくとも、私の目の届くところでは。

そしてこうも思いました。
10年前に巣立った娘と同様に、
このジェンガにも、いよいよ巣立ちの時が来たのだと。

上記の通り、綺麗に手入れをしておきました。
誰かこのジェンガを気に入って、
我が家の様に末永く遊んでくれる方がいらっしゃれば、
快くお譲りしたいと思います。

嫁として送り出す様な思いで手放します。

久しぶりに亡き母を思い出しました。
この主人公のように几帳面な性格ではありませんでしたけどね。